華雪・中島佳秀 二人展「白い絵・墨の花」 7/17-28

華雪・中島佳秀 二人展『白い絵・墨の花』


企画展:全館

会期:2020年7月17日(金)-7月28日(火)

時間:平日15:00-19:00 土日祝13:00-19:00 水木休み 

在廊日:華雪・・7月17日18日


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『墨の花』



これまで一番たくさん書いた字はなにかと訊かれたら、「花」と答えてきた。



「花」を最初に書いたのは中学生になったばかりのころだったか。記憶はおぼろげだが、それは額装され、今も母の家の壁に掛かっている。

幼い頃に書いた「花」はどこか空想の花だったように思う。母はそれを今もすきだと言うが、わたしは母の家に帰るたび、どこか浮ついたものに思えてしまう。実際、幼い頃に花を親しく思ったことは、ほとんどなかった。



花が身近になったのは10年前からだ。

Nと離れて、生まれて初めて一人暮らしをはじめたのは築年数が同い年の古いマンションだった。決して広くはない部屋の奥にある大きな窓に惹かれて選んだ部屋だった。窓の外にはベランダがあった。

引っ越して間もなく、近くの商店街の花屋でミニバラの苗を買った。ベランダで見よう見まねで鉢植えに植え替える。夏が来て、小さな赤い花が咲いた。

次の年も、また次の年も、バラはベランダの小さな鉢植えで赤い花を咲かせ続けた。さほど手入れをするわけでもなく、けれどふと見ると、蕾がまた膨らんでいる。わたしよりもずっとバラはたくましい。そんな感情を花に抱いたのは、はじめてのことだった。そのバラは今もベランダにいる。



新型ウイルスの感染が広がりはじめたこの春、バラはいつも以上に花をつけた。外出自粛の最中、ベランダでバラだけが活き活きと過ごしているような気さえした。花をすっかり開いたバラは、切って数日花瓶に指した後、思い立ってドライフラワーにすることにした。

乾ききったバラは、赤色をさらに深くした。そしてその色は、この春の緊張が途切れなかった毎日の記憶が日ごと薄れていくのを映すかのように、少しずつ色があせ、失われる。

目の前の深い赤色から枯れ色へとうつりゆく花は、わたしにとっては今そのものだ。

「花」の字に、今を書き留めてゆく。



20200712


華雪



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今回は最近かいている絵と、今自分と距離感の適切な過去の作品から持っていくことにした。白い絵というとマレーヴィッチが思い浮かぶが、今回の僕の場合、概念や対象と距離をとって、自分なりに物質的な絵をかきたいと思ったところが起点なので、違うんじゃないかなとは思っている。


中島


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華雪

かせつ

1975年、京都府生まれ。書家。立命館大学文学部哲学科心理学専攻卒業。92年より個展を中心に活動。文字の成り立ちを綿密にリサーチし、現代の事象との交錯を漢字一文字として表現する作品づくりに取り組むほか、〈文字を使った表現の可能性を探る〉ことを主題に、国内外でワークショップを開催する。刊行物に『ATO跡』(between the books)、『書の棲処』(赤々舎)など。作家活動の他に、『コレクション 戦争×文学』(集英社)、『石原愼太郎の文学』(文藝春秋)をはじめ書籍の題字なども多く手掛ける。

作品収蔵先:高橋コレクション(東京)、ヴァンジ彫刻庭園美術館(静岡)、うつわ菜の花(神奈川)など。



中島佳秀

アーティスト。1975年生まれ、08年より平面作品の発表をはじめ個展を中心に活動を続ける。主な個展にiTohen(大阪)、PANTALOON(大阪)、アトリエ3月(大阪)、森岡書店(東京)、新潟絵屋(新潟)がある。


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展示風景

アトリエ三月

大阪梅田 中崎町にあるギャラリー。アーティストランスペース兼酒場。画家の原康浩が運営しています。現代美術、絵画、イラストレーション、立体表現、アウトサイダーアートなど幅広いジャンルの表現を発信します。

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